診察の会話を記録するAI(音声入力・AIスクライブ)の大規模研究の結果と、退院時サマリ・紹介状で時間がかかる工程を比べ、エニシアが文書作成に絞る理由と、音声入力との使い分けの目安をまとめました。
診察の会話を聞き取ってカルテを下書きするAI(音声入力。海外では「AIスクライブ」と呼ばれます)は、2024年4月に始まった医師の時間外労働の上限規制とあわせて、導入を検討する病院が増えています。
それでも「みんなの地域連携室®」は、日々のカルテ入力には手を広げず、退院時サマリ・紹介状(診療情報提供書)・看護サマリなどの文書作成に絞って開発してきました。音声入力を否定しているわけではありません。音声入力が速くするのは「書く」工程で、文書作成で時間を取られているのは、その前の「読む・集める・まとめる」工程だからです。
8,581人を追ったJAMAの研究が示したこと
2026年4月、米国医師会雑誌(JAMA)に、AIスクライブ(診察の会話を録音し、カルテの記載を下書きするAI)の多施設研究が載りました(Rotenstein LS ほか)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 米国の大学病院5施設で外来診療に従事する臨床医8,581名(うちAIスクライブの導入者1,809名) |
| 期間 | 2023年6月〜2025年8月 |
| 電子カルテの操作時間 | 予約診療8時間あたり13.4分の減少(約3%) |
| 記録の作成時間 | 予約診療8時間あたり16.0分の減少(約10%) |
| 勤務時間外の電子カルテ操作 | 有意な変化なし |
| 週あたりの診療件数 | 0.49件の増加 |
比べているのは、電子カルテ(5施設ともEpic)に記録された操作時間です。使われたAIスクライブは3社の製品で、外来の予約診療8時間あたりに換算して、導入した医師としなかった医師の変化を比べています。
研究チームの評価は「控えめな(modest)減少」。プライマリケアの医師や、受診の半数以上でAIスクライブを使った医師では減り方が大きく、診療科や使い方によって差が出ています。観察研究なので、導入した医師としなかった医師の違いが結果に混じっている点も、研究チーム自身が断っています。
ここから読み取れるのは、診察中の記録を速くしても、勤務時間外の電子カルテ作業はすぐには減らないということです。医師の事務作業には、診察中の記録とは別に、過去の記録を読み返して1通にまとめる文書作成があります。
録音が向かない場面
音声入力の弱点は、使う場所と話す内容に左右されること。導入するなら、次の場面での運用を先に決めておく必要があります。
- 診察室:録音には、患者さんへの説明と同意が欠かせません。精神疾患や家庭の事情など話しにくい内容を含む診察では、録音そのものが会話の妨げになることがあります
- 病棟:大部屋やナースステーションでは、周りの患者さんやスタッフに聞こえるため、声に出して記録しにくい
- 効果の測り方:記録にかかる時間は、話す速さや言い直し・修正の手間で人によって大きく違います。病院全体で何時間減ったのかを示すのは簡単ではありません
時間がかかっているのは「書く」より前
医療者の記録・文書の仕事を場面で分けると、「診察・対話」「日々のカルテ記載」「サマリ・紹介状の作成」の3つになります。音声入力が効くのは主に前の2つ。エニシアが受け持つのは3つ目です。
退院時サマリは、入院から退院までの経過を1通にまとめる文書です。入院が長引くほど、関わる職種が増えるほど、さかのぼって読む記録は増えていきます。
AI電子カルテを導入した病院の院長は、退院時サマリの情報収集と要約について「1件あたり数十分、時には1時間以上の時間を要することもありました」と振り返っています(メディカルノート、2026年2月)。しかも退院時サマリには期限があり、診療録管理体制加算の施設基準では、退院日の翌日から起算して14日以内に作成した退院時要約の割合が要件の一つになっています(退院時サマリを生成AIで作成する)。
1通ができるまでを4つの工程に分けると、音声入力で速くなるのは最後の「書く」が中心です。
エニシアがサマリ・紹介状に絞る3つの理由
1. 効果を数えられる
文書作成の効果は「作成する通数 × 1通あたりの短縮時間」で見積もれます。退院数や紹介数が分かれば通数もおおよそ分かるので、導入前に試算して、導入後に実績と比べられます。
たとえば、試算ページの標準の前提(1通あたりの作成時間は退院時サマリ20.1分・紹介状16.25分・看護サマリ30分、削減率80%)で、年間の退院が1,000件の病院を計算すると、短縮できる作成時間は年間約885時間。内訳は医師が約485時間、看護師が約400時間です。作成時間や件数は病院ごとに入れ直せるので、自院の数字で計算し直してください。→ 導入効果と試算
導入の前後で効果を比べるなら、次の3つを導入前に控えておくと、あとで比べやすくなります。
- 文書ごとの1通あたりの作成時間(医師・看護師に分けて、数通ぶん)
- 月に作成する通数(退院時サマリ・看護サマリ・紹介状など、文書ごと)
- 退院日から退院時サマリができるまでの日数(14日以内に作成できた割合)
数字で示せることは、病院の経営層や情報システム部門に導入の判断材料を出すときにも効いてきます。
2. 診察室や病棟の環境に左右されない
会話を録音する仕組みでは、マイクなどの機器の準備と管理、患者さんへの説明、周りの騒音や話しにくい内容への配慮が、使う場所ごとについて回ります。「みんなの地域連携室®」は電子カルテの画面から依頼し、下書きを電子カルテへの一時保存、またはWord・Excel形式で受け取る仕組みです(出力形式は文書によって異なります)。録音の機器は使わず、患者さんとの会話にも入り込みません。
3. 散らばった記録を、文書の形に組み立てる
文書の材料は、もう電子カルテの中にそろっています。音声で入力し直す必要はありません。経過記録・看護記録・検査結果・処方といった記録をAIが読み、入院のきっかけや主な経過を時系列に並べて、主訴・入院後の経過・退院時の処方など文書の項目に沿った下書きを作ります。
ただ、下書きが速くても、中身を確かめにくければ医療者の手間は減りません。そのための仕組みも持っています。
- 根拠をその場で確認できる:AIが生成した文章のもとになったカルテ記事を、すぐに開いて確かめられます(特許出願済み)
- 使うほどユーザーに合っていく:AIの下書きと、医療者が確認した確認版との差分をもとに、使うほど適合していく仕組みです(特許第6573093号)
- 個人情報に配慮した処理:個人情報を匿名化した上で独自のAIで処理する技術について、特許(第7771494号)を取得しています。詳しくはサービス仕様へ
AIが作るのは、あくまで下書きです。最終的な内容は、医師・看護師などの医療者が確認して確定します。
音声入力と、どう使い分けるか
| 診察時の音声入力・AIスクライブ | みんなの地域連携室® | |
|---|---|---|
| 主な対象 | 診察中の記録(経過記録など) | 退院時サマリ・紹介状・看護サマリ・主治医意見書・精神科領域の診断書など |
| AIが使う材料 | 診察時の会話 | 電子カルテにたまった記録 |
| 使う場所 | 診察室・病棟 | 電子カルテの端末 |
| 短縮する工程 | 書く(入力) | 読む・集める・まとめる・書く |
| 効果の測り方 | 診察ごとの記録時間 | 作成通数 × 1通あたりの短縮時間 |
診察中の記録に追われているなら音声入力、退院前後にサマリや紹介状がたまるなら文書作成のAI、と負担のある場所で選ぶのが現実的です。両方を入れて、診察室では音声、退院時の文書は「みんなの地域連携室®」と分けることもできます。どちらの負担が大きいか迷うなら、年間の退院数と文書の通数を数えるところから。
対応している文書の一覧は対応文書一覧へ。自院の文書作成の負担や導入の進め方のご相談は、お問い合わせフォームから受け付けています。
参考
- Rotenstein LS, et al. Changes in Clinician Time Expenditure and Visit Quantity With Adoption of Artificial Intelligence–Powered Scribes: A Multisite Study. JAMA. 2026;335(16):1408-1417. doi:10.1001/jama.2026.2253(論文ページ)
- メディカルノート「医師が“人を診る時間”を増やし、患者の待ち時間を減らす 「AI電子カルテ」を実装する病院が目指す医療の形とは」(2026年2月)
この記事に関するよくある質問
音声入力や、診察の会話を記録するAIと一緒に使えますか?
併用できます。診察中の記録は音声入力で取り、電子カルテに記録がたまったあとで、退院時サマリや紹介状の下書きを「みんなの地域連携室®」で作る、という分担です。
マイクや録音の準備は必要ですか?
要りません。下書きの材料は電子カルテにすでにある記録なので、診察室や病棟で会話を録音する必要がないためです。依頼は電子カルテの画面から行えます(エニシアと連携済みの電子カルテの場合)。
導入の効果は、どのように見積もればよいですか?
年間の退院数(または病床数)を入れると、文書ごとの作成時間と、人件費に換算した効果を計算できる試算ページがあります。考え方は「作成する通数 × 1通あたりの短縮時間」です。